IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

開発契約とサーバ売買契約の関係 東京地判平18.6.30判時1959-73

開発契約が解除された場合に,不要となったサーバの売買契約も併せて解除できるかが争われた事件


※本エントリは,下記判例と同一ですが,異なる争点を取り上げたものです。

http://d.hatena.ne.jp/redips+law/20091226/1327130012

事案の概要

宗教団体Xは,ベンダYにデータベースの開発を委託し,そのためにウィンドウズサーバを購入した。しかし,目的としていたデータベースは完成せず,Xは契約を解除した。そこで,Xは,開発のために支払った内金と,サーバ代金の返還を求めた。

ここで取り上げる争点

開発契約を解除したとしても,サーバの売買代金の返還までも求められるか。

裁判所の判断

通常の開発と同様に,開発作業そのものは請負契約であり,他方,サーバの購入は売買契約であるとして,両者は別個の契約であるとしている。しかし,両者の関係について,

本件契約(注:開発基本契約)は、(略)ウインドウズサーバーによるデータベースの開発を前提にしており、そのことからこれまでの使用していたマッキントッシュサーバーからウインドウズサーバーに変更することを前提として、Xはウインドウズ用の本件サーバーを購入したのであって、本件データベースの開発がなければ本件サーバーを購入していない関係にあるといえる。

(中略)

このように本件サーバーにかかる売買契約は本件契約と一体であり、本件契約の解除事由は当然に本件サーバーの購入にかかる売買契約の解除事由に該当するものというべきである。

すなわち,開発契約と売買契約は一体の関係にあるから,開発契約に解除事由があれば,売買契約も解除できるとして,サーバの購入代金まで返還を認めた。

若干のコメント

開発契約を解除しようというときに,ユーザは何をどこまで請求するかということを考えるが,当然ながら,開発のために準備したハードウェアの代金についても,返還を求めたくなると考えられる。しかし,ベンダの立場からしてみれば,契約解除の有効性を争うことは当然として,仮に解除が認められるとしても,ハードウェアは他の用途への転用が可能であるから,その代金まで返還させられてはたまらないところだろう。本判決は,開発契約の解除とともに,ハードウェアの購入代金の返還まで認めたという点で注目される。


しかし,システム開発においては,開発の委託先と,ハードウェアの購入先は異なることが多く,そうであれば,両者に一体性がないことは明らかで,たとえ開発契約を解除したとしても,売買契約まで解除できることにはならない。たまたま同じベンダから買ったときには全部解除できるとなると,バランスを失するように思える。


本判決は,「本件データベースの開発がなければ本件サーバーを購入していない関係にある」と述べて,両者の一体性を認めたが,この種の論理が契約法全体を支配しているとはいえず,契約の個数論,牽連関係については,明確な基準が確立されているわけでもない。したがって,この部分の論理のみを独り歩きさせて,あまり射程を広くとりすぎるのは危険だと思う。


ただ,契約をフェーズやサブシステム単位に分割して締結する場合も多く,ある領域,フェーズで重大な問題が発生したとしても,その細分化された個別契約しか解除できないとするのも不合理である。契約の解除の規定については,契約を分割する場合でも,基本契約(マスターアグリーメント)において定めておきたいところである。