IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

著作権が侵害あるとの虚偽告知 東京地判平14.7.25

「IT判例」には分類しにくいところですが,ゲームソフトをめぐる著作権侵害の事実を第三者に告知したことが,競業者の誹謗行為として,不正競争防止法に基づく損害賠償が認められた事例を紹介します。

事案の概要

Y1は,Y2から委託を受けて,パチンコゲームソフトを開発していましたが,そのころY1は,Xからも同種のゲームの製作を二重に受託していました。その後,Y1からゲームの納入を受けたXは,東芝イーエムアイから販売することを予定していたところ,その事実を知ったY2が,東芝イーエムアイに対し,おおよそ以下のような文書を送付しました(要約)。

御社が販売しようとしているゲームソフトは,当社がY1に開発を委託した商品と酷似しています。商品のアイデア,ノウハウは,当社から,Y1に提供されており,契約にも全ての著作権知的財産権は当社に属すると定めています。
貴社が,右商品を販売を行うと,著作権侵害に当たると思われます。そのため,即刻商品発売の停止並びに経緯説明をご回答ください。


これを受けた東芝イーエムアイは,販売を中止しました。


Xは,上記文書を送付したY2に対し,不正競争行為等に該当するとして,約1100万円の損害賠償を求めました(Y1に対しても,債務不履行に基づく損害賠償を請求していますが,ここでは割愛します。)。

ここで取り上げる争点

ゲームソフトの著作権侵害に当たると思われます,との記載が,不正競争防止法2条1項14号の「他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し」にあたるか。

裁判所の判断

まず,Y2が主張した「著作物」とは,画面(美術の著作物)であるとして,Y2向けに開発されたゲームと,X向けに開発されたゲームを比較し,

ユーザー自らがパチンコ台を自由に構成した上でパチンコプレイをするというゲームソフトを作成する場合には,パチンコ台盤面のほか,上記の各機能のためのボタン等のアイコンを配置することが必要であるところ,画面の限られたスペースのなかにパチンコ台と共にこれらのアイコンを配置するためにはその位置を選択する余地は極めて小さいものとなるし,また,各機能のためのアイコンにしても機能を文字で表示することを含めてデザインの選択の余地は極めて小さい。


などとして,そもそも画面に著作物性を認めず,著作権侵害は問題にならないとしました。


また,プログラムの著作物の主張に関しても,ファイル名に一部一致,類似があるとしても,著作権の侵害とはいえないとしました。


したがって,Y2から東芝イーエムアイ宛に送られた文書には,「事実に反する虚偽の記載」があるとしました。結果として,約660万円の賠償を認めました。

若干のコメント

競合他社が,特許権その他の知的財産権の侵害行為を行っている,との警告を,小売店,販売店等に行うことは,裁判で争った結果,侵害の事実がなかったと判断された場合には,本件のように,虚偽告知として,損害賠償義務を負うリスクがあります。確かに,法律上の要件としては,仮に侵害の有無について判断を誤ったことについて過失がなかったことが証明されれば,責任を免れることになりますが,この種の事件において,警告者が「過失がなかった」と判断されるケースはそれほど多くありません。