IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

チュッパチャプス事件控訴審 知財高判平24.2.14(平22ネ100076号)

ショッピングモール(楽天)の出店者が商標権侵害を行っていた場合において,そのモールの運営者も商標権侵害が成立するかどうかが争われた事例の控訴審

事案の概要

"Chupa Chaps"の商標権を有するイタリア法人(原告)が,楽天(被告)に対し,楽天に出店する出店者が,原告の商標権を侵害する商品(チュッパチャプスのロゴを表示したよだれかけ,キャップ等)を販売しているとして,商標権侵害等を理由に商品販売差止及び損害賠償を請求した事件。一審は,当ブログでも紹介したとおり,楽天は商標権侵害の主体ではないとして,請求棄却された。

http://d.hatena.ne.jp/redips+law/20110701/1327154142

裁判所の判断

原審では,モールの運営者は商標権の侵害主体でないとしたのみであったが,控訴審では,一歩踏み込んで,責任を負う場合があることを示した。

ウェブページの運営者が,単に出店者によるウェブページの開設のための環境等を整備するにとどまらず,運営システムの提供・出店者からの出店申込みの許否・出店者へのサービスの一時停止や出店停止等の管理・支配を行い,出店者からの基本出店料やシステム利用料の受領等の利益を受けている者であって,その者が出店者による商標権侵害があることを知ったとき又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるに至ったときは,その後の合理的期間内に侵害内容のウェブページからの削除がなされない限り,上記期間経過後から商標権者はウェブページの運営者に対し,商標権侵害を理由に,出店者に対するのと同様の差止請求と損害賠償請求をすることができると解する

その理由として,次の5つを挙げて,

(1)多くは商標権侵害をするものではなく,その危険は低いこと
(2)商標権に抵触する可能性があっても,ライセンス品,並行輸入品だったりして直ちに商標権侵害といえる蓋然性は高くないこと
(3)しかしモール運営者であっても,出品者の商標権侵害行為を具体的に認識するに至った場合には商標法違反のほう助者となる可能性があること
(4)モール運営者は出店契約に基づいて営業上の利益を得ていること
(5)モール運営者はコンテンツ削除,出店停止の措置を取りうること

として,

ウェブページの運営者は,商標権者等から商標法違反の指摘を受けたときは,出店者に対しその意見を聴くなどして,その侵害の有無を速やかに調査すべきであり,これを履行している限りは,商標権侵害を理由として差止めや損害賠償の責任を負うことはないが,これを怠ったときは,出店者と同様,これらの責任を負うものと解されるからである。

と判示した。


さらに原告(控訴人)の主張を容れ,

侵害者が商標法2条3項に規定する「使用」をしている場合に限らず,社会的・経済的な観点から行為の主体を検討することも可能というべきであり,商標法が,間接侵害に関する上記明文規定(同法37条)を置いているからといって,商標権侵害となるのは上記明文規定に該当する場合に限られるとまで解する必要はない

として,商標権侵害の範囲を拡大するかのような解釈をしている。


以上を踏まえて,被告(楽天)は,確実に侵害の事実を知った訴状送達を受けた日から8日以内に該当商品を削除したことから「合理的期間内にこれを是正した」として,商標権侵害を否定した。

若干のコメント

この判決は,103頁もあるものの,裁判所の判断は77頁以下で,その先も楽天のシステム,規約などの説明,引用が中心で,根幹となる部分の判断については,99-100頁の2頁ほどです。とはいえ,前半で要約されている当事者の主張には,外国の裁判例の援用,解釈や,国内の各種事例(掲示板における名誉棄損,著作権の間接侵害等)との対比については,興味深い。


ロクラクII事件,まねきTV事件の場合は,運営者が著作権侵害の主体になるかという点で論じられ,侵害主体性を単に外形的,形式的な行為だけで判断するのではなく,規範的に判断すべきとされました。本件でも侵害主体を「社会的・経済的な観点から行為の主体を検討することも可能」と述べており,同様の流れであるように思えます。


本件では,商標法違反のほう助という記載があったことからも,運営者を正面から商標の使用主体と認めたわけではないですが,一定期間を経過すると商標権侵害を理由に差止請求できるとあり,なぜ商標権侵害に転化するか,また,「使用」していなくとも「侵害」になるのか(商標法25条との関係),いまいち判然としません。この点は,もう少し追って考えてみたいと思います。