ゲーム運営者が,ユーザのキャラクター(アバター)を削除したことが,ゲーム使用許諾契約上の債務不履行あるいは不法行為にあたるとして,当該ユーザが慰謝料を請求したが認められなかった事例。
事案の概要
Xは,Yが運営するGAMECITYに登録し,MMORPG*1であるAをプレイするために,ウェブサイトからクライアントプログラムをダウンロードし,平成18年9月にアカウント登録の上,合計で約2000時間プレイした。
登録の際に承諾する必要がある利用規約には,
9.裁量による情報の削除
(2) 当社は,以下に該当する場合には,アップロード情報を,いつでも,当社の裁量において,当該ユーザーへの事前通知を行うことなく,削除することができるものとします。
(b) アップロード情報が,当社又は他のユーザーに何らかの不利益・迷惑等を及ぼすものであると当社による認められる場合。
という規定があった。
その後,Yは,平成20年7月30日に,Xのつけたキャラクター名「Gestapo」が規定に違反するとして,Xのキャラクターデータを削除した。
そこで,Xは,Yによる削除行為が,XY間の利用規約の債務不履行である,または不法行為にあたるとして,慰謝料300万円のほか,キャラクターを使用する権利を有することの確認を求めた。
裁判所の判断
争点(1)(確認の利益)について
次のように述べて,あっさり認めた。
Xは,Yに対し,本件契約に基づき本件キャラクターを使用する権利を有していると主張して,現在の権利関係の確認を求めているのであって,過去の事実関係の確認を求めているわけではないから,Xの上記確認の訴えは確認の利益を欠くものとはいえない。
争点(2)(利用規約の有効性)について
Xは,Yの掲げる利用規約についての合意は成立していないと主張したが,裁判所は,ゲーム利用開始までのプロセスについて,
GAMECITY市民登録を行うためには,GAMECITYのトップページにおいて,「GAMECITY会員登録」のボタンをクリックしてジャンプした「MEMBERS SALON」のページにおいて「GAMECITY市民登録」のボタンをクリックすることによって表示される本件規約を承諾し,市民登録依頼ページにおいて利用者の電子メールアドレスを入力し,当該電子メールアドレスに届いたメールに記載された市民登録フォームのページにおいて氏名,パスワード及び生年月日等の必要事項を記入し,「市民登録する」というボタンをクリックして入力した事項の確認画面において「登録内容の確認」というボタンをクリックする必要があり,これらの手続を経て,GAMECITY市民登録がされて市民IDが発行されることとなる。
なお,本件規約承諾の際には,画面上に本件規約の一部とスクロールボタンが表示された上で,「GAMECITYの市民登録をおこない,サービスをご利用頂くためにはコーエーネットワーク利用規約(本件規約)をご承諾頂くことが必要です。以下の規約をお読みください。」及び「ご承諾頂ける場合には「承諾する」ボタンをクリックし,登録ページにお進みください。そうでない場合は「承諾しない」ボタンをクリックしてください。「GAMECITY市民登録」トップへ戻ります。」との注意書きが記載されており,本件規約全文を読むには画面をスクロールして表示する必要があるところ,本件規約をスクロールして全文を表示せずとも,「承諾する」のボタンをクリックすることができるようになっている。
などと,規約をスクロールしたうえで「承諾する」ボタンをクリックする必要があるなどと事実認定し,
仮にXが本件規約の各条項に目を通していなかったとしても,本件規約の内容に従うことに同意して本件契約を締結したものと認めるのが相当であり,また,その点においてXに真意と表示の不一致はなく,要素の錯誤を認めることもできないから,Xは,本件契約の内容となるべき本件規約に拘束されるものと解するのが相当である。
と,拘束されることを認めた。
また,消費者契約法10条や公序良俗に反して無効であるとの主張については,
しかし,本件ゲームは,多数の利用者が同時に参加して他の利用者と交流することを想定して創作された多人数参加型オンラインゲームであり,利用者が本件ゲームを快適に楽しむことができるようにするため,本件ゲーム空間内の秩序を維持し,これを適切に管理する必要があるところ,こうした管理の権限と責任を負うのが本件ゲームを運営するYであることはいうまでもない。また,本件ゲームでは,利用者が多種多様な行動をとることが前提とされており,利用者がYも想定できないような行動をとることもあり得ることからすると,本件ゲームの管理運営を行うYにおいて,本件ゲームの適切な管理のために本件規約上で使用条件を定める際に,不適切な行為やその対応策をあらかじめ個別具体的にかつ網羅的に列挙することは実際上不可能であり,ある程度包括的な定め方ないし記載となったとしても,それが過度に広汎ないし不明確にわたるものでない限り,やむをえないものと解するのが相当である。
と,運営者において包括的な禁止規定を定めることもやむを得ないとし,本件規定中の
中傷・嫌がらせ・わいせつ等,他のユーザーが嫌悪感を抱く,又はそのおそれのある内容の掲載・開示・提供・送付・送信等の行為
という禁止事項は,過度に広範ないし不明確ではないとした。さらには,禁止規定に該当するかという判断が,「当社による」「当社の裁量において」といった定め方になっていることについても,「利用者を一方的に害する」ものではないとして,消費者契約法10条違反,公序良俗違反ではないとした。
争点(3)(削除行為の違法性)について
Xのキャラクター名が「Gestapo」というナチスドイツの秘密警察の略称であったことは,
ゲシュタポという言葉が,上記のようなナチスドイツによる非人道的所業を想起させるものであること,16世紀ヨーロッパの大航海時代をイメージして創作された仮想世界を舞台とする本件ゲームにはそぐわないものであることからすれば,多数の利用者が存在する本件ゲーム空間を適切に管理運営する権限と責任を有するYにおいて,Xによる「Gestapo」という名称の本件キャラクターの使用が,本件ゲームの他の利用者に少なからぬ抵抗感,不快感ないし嫌悪感等を与えるおそれがあると認めたことは首肯し得るものであって,本件ゲームの適切な管理運営を図るという本件規定の趣旨・目的にかんがみて社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものとはいえない
として,Yによる裁量の濫用はないとした。
若干のコメント
最後の「Gestapo」という名称の評価については賛否分かれるところだと思いますが,利用規約に関する合意の成否及び,包括的な禁止事項の有効性については,これまでの実務を追随するものであり,妥当なものであったといえます。
なお,インターネットサービスにおける利用規約の有効性については,平成24年11月版の経済産業省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」のテーマ「I-2-1ウェブサイトの利用規約の契約への組入れと有効性」(i-22以下)において,
(サイト利用規約が契約に組み入れられると認められる場合)
ウェブサイトの利用に際して、利用規約への同意クリックが要求されており、かつ利用者がいつでも容易にサイト利用規約を閲覧できるようにウェブサイトが構築されていることによりサイト利用規約の内容が開示されている場合
としており,利用規約の同意と閲覧可能な状態での開示があれば有効だとしているので,当該準則に照らしても,当判決の判断は妥当だといえます。
Xは2つのキャラクターを登録してプレイしており,Yによって削除されたキャラクターはサブキャラ的な存在で,合計プレイ時間は約150時間でした。メインで育てたキャラクターは約1950時間プレイしていたようであり,仮にYが削除したキャラクターが,これだけ長時間かけて育てたキャラクターであった場合には,結論が変わるのかどうか,疑問が残るところです。
*1:多人数同時参加型オンラインロールプレイングゲーム Massively Mutliplayer Online Role Playing Game