IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

販売実績・シェア等の図表の著作物性 知財高判平23.3.22(平22ネ10059号)

月刊誌に掲載されたEC通販の企業別年間売上実績,上位150位の商品ジャンル別売上高シェア等の図表の著作物性が問題となった事例。

事案の概要

「月刊ネット販売」という月刊誌を発刊するXは,同誌に以下の図表を掲載していた。


図表1:インターネットによる通信販売を実施する企業について,年間実績として「PC+携帯売上高」,「増減率」,「携帯売上高」,「月間アクセス数」,「累積会員数」を上位150社について「PC+携帯売上高」の高い順に1位から並べて配列したもの。


図表2:EC上位150社の商品ジャンル別の売上高シェアについて,「総合」,「食品」,「書籍・CD・DVD」等に分けて円グラフとして配列したもの。


図表3以下略。


これに対し,週刊通販新聞の編集者であるYは,「最新 通販業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本」という業界本を執筆し,上記各図表と同一または類似する図表を掲載した(出典は明記していた。)。


そのため,XはYに対し,各図表は編集著作物であり,その著作権を侵害したとして金250万円の支払いを求めた(その他の請求もあるが割愛する。)。第一審(東京地判平22.6.17(平21ワ27691号)はXの請求を棄却した。

ここで取り上げる争点

Xの各図表の著作物性。

裁判所の判断

原審同様に,各図表の著作物性を否定し,控訴を棄却した。裁判所の判断も大部分は引用されているので,原審の判断も併せて引用する。


図表1について,原審での判断は次のとおりであった。

信販売,通信教育,訪問販売等特定の業界について,これらの商取引を実施する企業や当該業界全体の売上高などの実態の把握や動向分析のために,各企業の「年間売上高」,「前年比」や「増減率」あるいは「増収率」,「決算期」,「主力商品」や「取扱商品」という素材を選択することは,X図表1が「月刊ネット販売」2007年9月号に掲載される以前から,一般に行われていたことであり,ありふれたものであったと認められる。また,パソコンや携帯電話がインターネットを利用する際に用いる主要な道具であることに照らせば,インターネットによる通信販売を実施する企業において,年間売上高のうち「PC+携帯」の売上高(パソコン又は携帯電話を経由した売上高)や「携帯」の売上高(携帯電話を経由した売上高)は基本的な営業情報であるといえ,上記実態の把握や分析のために,これらの素材を選択することも,ありふれたものであったと認められる。

そして,上記証拠によれば,当該商取引を実施する企業を「売上高」の高い順に1位から順に縦に並べて配列し,各社ごとに,上記素材に係る数値や情報を横に並べて配列することは,X図表1が「月刊ネット販売」2007年9月号に掲載される以前から,一般に行われていたことであり,ありふれたものであったと認められる。

したがって,X図表1は,素材の選択又は配列によって創作性を有するものであるということはできない。


これに,控訴審では,次の判断も加わる。

なお,Xは,通信販売中,パソコン及び携帯とに限定した項目を中心として,横列(「増減率(%)」,「携帯売上高(百万円)」,「月刊アクセス数(PV:万)」,「累積会員数」,「決算期」,「主要商材」)を有機的に結び付けた図表は類例がなく,Xの創作性の表れであると主張する。

しかし,通信販売中,パソコン及び携帯とに限定した項目を中心とした図表がこれまで存在しなかったとしても,インターネットによる通信販売を実施する企業において,「PC+携帯」の売上高(パソコン及び携帯電話を経由した売上高)や「携帯」の売上高(携帯電話を経由した売上高)が基本的な営業情報であることに照らせば,「PC+携帯」(パソコン及び携帯電話を経由した売上高)や「携帯」の売上高(携帯電話を経由した売上高)という項目を図表の中心として選定することは,特段の創意工夫なくなしうるありふれた発想に基づくものというべきであって,創作性があるとは認めがたい。Xの上記主張は採用することができない。


図表2について,原審での判断は次のとおりであった。

信販売,通信教育,訪問販売等において,これらの商取引を実施する企業の取扱商品のジャンルについて,「総合」,「通信教育」,「化粧品・健康食品」,「衣料・家具」,「家電」,「パソコン」,「食料品」,「衣料品」,「生活雑貨」,「オフィス用品」などの分類を用いること(素材を選択すること)は,X図表2が「月刊ネット販売」2007年9月号に掲載される以前から,一般に行われていたことであり,ありふれたものであったと認められる。また,「衣料品・雑貨」,「化粧品・健食」,「PC・家電製品」,「書籍・CD・DVD」のように,類似する,あるいは,関連性のある複数の商品を同一の商品ジャンルとしてまとめて分類することは,一般に行われていたことであり,ありふれたものであったと認められる。

そして,商品ジャンル別の売上高シェア(占有率)を示すに当たり,全体に占める割合(%)に応じて円グラフとして配列することは,情報の一覧性を高める手法として,X図表2が「月刊ネット販売」2007年9月号に掲載される以前から,一般に行われていたことであり,ありふれたものであったと認められる。

したがって,X図表2は,素材の選択又は配列によって創作性を有するものであるということはできない。

これに,控訴審では,次の判断も加わる。

なお,Xは,各メディアの各図表は各特徴を有しているところ,それらの図表はXの分類とは異なっており,この特徴こそが各作成者の創作性であるなどと主張する。

しかし,X作成に係るX図表2と同一の分類が存在しなかったとしても,「衣料品・雑貨」,「化粧品・健食」,「PC・家電製品」,「書籍・CD・DVD」のように,通信販売の対象商品を上記のように分類することはありふれた発想であり,創作性があるとは認めがたい。Xの上記主張は採用することができない。


結局,いずれの図表においても著作物性を認めなかった。

若干のコメント

この判例を「IT判例」に分類するのはやや強引ですが,ホームページ等で,データ・図表のコピーが問題となることが多いため,ここで取り上げています。


この種のデータを編集・加工した図表が無断で使用された場合において,どのような法的保護を受けられるかというのはときどき問題になります。統計数値等の事実そのものは著作物にあたらないことは性質上も明らかであり,注意規定もありますが(著作権法10条2項),素材の選択又は配列に創作性を有するものは編集著作物として保護を受けます(同法12条1項)。


しかし,本件のようなデータは,よほど目新しい切り口による項目,配列がなされない限り,著作物性が認められることはないでしょう。


仮に著作物性を有しないとしても,そのデータ収集,編集に極めて手間がかかる場合には,一般不法行為に基づいて損害賠償できるケースがありますが(データベースにつき東京地中間判平13.5.25),本件の場合はそれも認められていません。