IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

メニュー構成の編集著作物該当性 東京地判令2.3.19(平30ワ33203)

メニュー構成が類似する同種のソフトウェアにおいて,編集著作物に該当するかが争われた事案。

事案の概要

本件は,X商品(LINE@を利用したマーケティングツール)を開発したXが,同様にLINE@を利用したマーケティングツールを開発・販売したYに対し,著作権(複製権,送信可能化権公衆送信権)を侵害するとして,著作権法112条1項に基づく複製等の差止請求と,民法709条に基づく約2400万円の損害賠償等を請求した事案である。


Xは,X商品には,下記対比表のとおり機能をカテゴリーに応じて階層化して表示しており,X商品は編集著作物に該当すると主張していた。

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ここで取り上げる争点

X商品の編集著作物該当性

裁判所の判断

裁判所は,X商品の内容,機能を丁寧に認定しつつ,編集著作物*1該当性における,まず「素材」について次のように述べた。

Xは,本件において,パソコン画面等で表示されるX商品の親カテゴリーから小カテゴリーに至る「各カテゴリー名」が「素材」であって,その「素材」の選択及び配列に創作性が認められるとして,X商品が編集著作物(著作権法12条)であると主張する。
(略)ここで,Xが素材と主張する「カテゴリー名」は,パソコン等の画面において,X商品において選択することができる機能に対応する画面を示すために,画面の上部に,ロゴ等表示部分の下のやや太い青みがかった線に,白抜き文字で表示されているものであったり(親カテゴリー名,中カテゴリー名),(略)各画面において,ロゴ等表示部分及びカテゴリー名を表示するやや太い青みがかった線の下に,示されるものである(小カテゴリー名)。
このようなX商品とそこにおけるカテゴリー名の使用の態様に照らせば,これらの「カテゴリー名」は,X商品の異なる画面において,他にも多くの記載がある画面の表示の一部として表示されるものであって,X商品をもって,「カテゴリー名」を「素材」として構成される編集物であるとはいえない。
そうすると,X商品が編集著作物であり,カテゴリー名自体が原告商品の素材であると主張するXの主張は,その余を判断するまでもなく理由がない。

続いて,創作性についても次のように述べて否定している。

X商品の各画面は,そのカテゴリー名に対応する機能を実現するために表示されるものである。そうすると,X商品における各カテゴリー名と各画面の表示との関係は,何らかの素材をカテゴリー名やその階層構造に基づいて選択,配列したというものではなく,カテゴリー名に対応する機能を実現するための画面の表示があるといえるものである。そして,カテゴリー名は,結局,それに対応してX商品が有する機能・利用者が利用しようとする機能を表すものである。そうすると,XはX商品はカテゴリー名の選択,配列において編集著作物としての創作性を有し,その点でX商品とY商品が共通していると主張するのであるが,それらの選択と配列が共通しているとの主張は,結局,ある商品において採用された機能やその機能の階層構造が共通していると主張しているのに等しい部分がある。ある商品においてどのような機能を採用するかやその機能をどのような階層構造とするか自体は,編集著作物として保護される対象となるものではない。

さらに,Xは,カテゴリー名の選択,配列に創作性があるとも主張し,X商品とY商品のメニュー・カテゴリを比較するだけでなく,類似の第三者商品であるA商品,B商品,C商品について同様の対比を行った(下図参照)。

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確かに,この対比によればX商品とY商品だけが類似していて,他社商品とは類似していないことが直感的に見てとることができるが,次のように述べた。

LINE@を用いた集客,マーケティング支援ツールというX商品においてどのような機能を実装するかはアイディアに過ぎず,それ自体は著作権法の保護の対象になるものではない。そして,「素材」たる各カテゴリーの名称の選択についてみると,上記のようなX商品の性質上,各カテゴリーに付す名称は,各カテゴリーが果たす機能を一般化・抽象化し,ユーザーにとって容易に理解可能なものとする必要があるため,その選択の幅は自ずと限定される。そのような視点で選択されたX商品の各カテゴリー名は,それ自体をみてもありふれたものであり,現に,X商品の「メッセージ」,「統計情報」というカテゴリー名は他社商品でも用いられているほか,X商品の「メッセージ」の下に設けられた小カテゴリーの各カテゴリー名や「統計情報」の下に設けられた小カテゴリーの各カテゴリー名と同一ないし類似したカテゴリー名が他社商品においても用いられている。(略)
したがって,X商品における各カテゴリーの名称は,各カテゴリーが果たす機能を表現するものとしてはありふれたものといえる。

次に,各カテゴリー名の配列についてみても,X商品においては,(略)他社商品に比して複雑な階層構造が採用されており,各カテゴリー名の配列について一定程度の工夫はされていると認められる。
しかし,ユーザーによる操作や理解を容易にするという観点から,実装した機能の中から関連する機能を取りまとめて上位階層のカテゴリーを設定し,機能の重要性や機能同士の関連性に応じて順次下位の階層にカテゴリー分けをしていくというのは通常の手法であり,X商品の各カテゴリー名の配列は,複数の選択肢の中から選択されたものではあるものの,ありふれたものというべきである。

Xの請求はすべて棄却された。

若干のコメント

ビジネス系のソフトウェアにおいて,類似する機能をもったソフトウェアについて,著作権を行使するという事案は少なくないですが,(i)プログラムの著作権を主張する場合には,相手方のプログラムとの対比を行うことの困難性があり,(ii)画面デザインの著作権を主張する場合には,類似する機能を実装すると画面デザインが必然的に類似してしまって創作性立証の困難性があり,請求が認められることはなかなかありませんでした。


本件は,(i)でも(ii)でもなく,メニュー・カテゴリーの編集著作物性を主張したという事案です。過去にも,サイボウズ事件*2や,釣りゲーム事件一審*3でも,画面遷移・フローについて著作物性を主張したという事案がありましたが,いずれも認められておらず,これらは「表現」ではなく「アイデア」に過ぎないという発想があるものと思われます。なお,本件では,画面デザインに関する著作権の主張は行われていませんが,シンプルなデザインであるから著作物性の主張が困難だったか,そもそも類似していなかったものと考えられます。


本判決では,確かに,X商品,Y商品のメニュー構成は類似していながらも,他社商品とは異なっているということを示して,選択の幅があること,類似性があることの立証を試みたという工夫は見られました。単にX・Yの両製品の比較だけでは,裁判所は,機能に由来する当然の類似の結果に過ぎないのか,ほかの選択の余地があるのか判断ができないからです。しかしながら,カテゴリー名自体も,その配列も,ごくありふれたものであるという評価を免れることはできず,請求は棄却されました。


判決文も示唆しているように,メニュー構成等に著作物性を認めてしまうと,ソフトウェアの機能の独占を認めてしまうことになりかねないので,この判断は妥当であったろうと思います。

*1:著作権法12条1項。「編集物(データベースに該当するものを除く。以下同じ。)でその素材の選択又は配列によつて創作性を有するものは、著作物として保護する。」

*2:東京地判平14.9.6―そういえば,当ブログでは紹介していませんでした。

*3:東京地判平24.2.23 https://itlaw.hatenablog.com/entry/20120318/1332047196