IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

情報商材販売と不法行為 東京地判平20.10.16(平19ワ32364号)

FX常勝バイブルという情報商材を販売していた業者と,そこで紹介されたFX事業者に対する損害賠償請求が一部認容された事案。

事案の概要

Xは,FX取引開始当時21歳の大学生で,アルバイト,お小遣い等をためた貯金350万円を有していた。Y1は,アフィリエイトの方法などを教える「ネット商材」を,ウェブサイトを通じて販売しており,Y2は,FX事業者である。


Y1のサイトでは「FX常勝バイブル」を紹介しており,次のような表現があった。

「このページをご覧いただきたい方は,万全なリスクコントロールと,確立されたノウハウFXで,100%の勝率と,月間利益率25%以上を獲得して,一度きりの大切な人生を,お金にゆとりを持って過ごして行きたいと望む方です。」

「勝率100%&高利益率のエンサークル・トレードのノウハウ」

「将来的にも,ロスカットは絶対に致しませんので資金の損失は発生しません。」

「『急いでロスカットをしない』『好転するまでじっくり待つ』を肝に銘じてやっていけば,為替差損のリスクは確実に回避することができるんです。」


これらの表現と共に,Y2での口座開設が勧められており,Y2へのリンクが貼られていた。


Y2におけるオンラインでの口座開設にあたっては,「iFX Styleご利用マニュアル」,「外国為替取引等に関する確認書」,「外国為替取引約諾書」等を読んだ上,これを「理解した」あるいは「同意する」をクリックする必要があった。また,「元本保証がされていないことを理解したか」などの項目にチェックすることになっていた。


Y1とY2との間には,「FX常勝バイブル」を読んだ読者がY1のリンク経由でY2のサイトを訪問した場合,以下のような報酬を払う合意があった。

  • 資料請求1件につき5000円
  • 資料請求後3カ月以内の口座開設1件につき15000円
  • 資料請求せずに口座開設したときは1件につき20000円


Y2の顧客のうち,2割程度はY1経由で口座を開設した者であった。


Xは,Y1に24,000円支払って,FX常勝バイブルを取得し,Y2に口座を開設し,FX取引を開始したが,結局約185万円の損失を被った。


そこで,Xは,リスク認識を誤ったまま取引を開始して損害を被ったとして,Y1,Y2に対し,不法行為に基づく損害賠償請求として約200万円を請求した。

ここで取り上げる争点

(1)FX事業者Y2の不法行為
(2)アフィリエイト業者Y1の不法行為

裁判所の判断

争点(1)に関し, FXは投機性,危険性が高く,専門性の高い取引であるとしたうえで,当時21歳の大学生で投機経験のないXの適合性について,次のように述べた(少々長いが引用する)。

Xは,「100%の勝率と,月間利益率25%以上」などとうたうY1のホームページを閲覧し,「絶対にリスクがない」などという「FX常勝バイブル」に誘引されて取引を開始しているのであるから,Y2においては,その適合性について慎重に判断すべきであった。

しかるに,Y2は,前記認定の口座開設申込書の内容に加え,取引開始預託金を200万円以上を預託できることから適合性があると判断した(証人D)というのであるが,口座開設申込書の内容は,21歳で無職,株式の現物取引,年収500万円未満,金融資産500万円未満などというだけであり,この記載から適合性が認められるとはいえない。

(略)

しかも,「FX常勝バイブル」において,Y2については,「投資経験,年収,投資方針,投資期間などの項目は何を入れても大丈夫です。」とされており,同じく紹介されているセントラル短資株式会社については,外国為替の投資経験について,6か月未満とするとリスク確認に手間が掛かるので,手間を省略するために6か月から3年を選択するように指導されている。
この記載からみても,Y2における適合性審査の甘さがうかがわれる。

(略)

そして,Y2においては,「FX常勝バイブル」のこのような指導を認識した上で(証人D),前記のような適合性審査といえるか疑問といわざるを得ない程度の情報をもとに,取引を開始させているのである。

Y2は,「FX常勝バイブル」に記載されたリンクをたどってY2のホームページへアクセスし,口座開設等に至った場合には,Y1に対して一定の金員を支払っており,そのような方法により口座開設に至った者がY2の顧客3000から4000名のうち700名程度に至っていたのであって,まさに,Y2は,Y1によるY2への口座開設までの誘引行為を利用していたのである。

Y1による「100%の勝率と,月間利益率25%以上」との外国為替証拠金取引に関する説明は,断定的判断を提供するものであり,投資者の判断を誤らせるものである。

Y2は,この誘引行為を顧客獲得の手段としていたのであるから,外国為替証拠金取引に関する誤った理解をしている者が申込をしている可能性があることを認識していたはずであり,そうでなかったとしても少なくとも認識すべきであり,それを前提により慎重な説明や適合性審査をすべきであるのに,前記のような不適切な口座開設までの手順指導を容認し,さしたる適合性審査をするでもなく,本件取引を開始させたのであり,この一連の顧客獲得行為自体が違法である。

以上のように述べ,Y2による反論を排斥した上で,不法行為責任を認めた。


争点(2)に関しては,次のように述べてあっさりと不法行為責任を認めた。

Y1は,そのホームページでY1代表者の「FX常勝バイブル」の紹介を載せ,これを販売し,Y2から一定の金銭を受け取るなどして,外国為替証拠金取引に関する誤った情報を提供し,Xをして本件取引を開始させたのであるから,民法709条により,Xに対する不法行為責任が生じる。


そして,損害については,約185万円の損失のうち,Xの過失を5割と認定し,約92万円と認定し,これに加えて10万円の弁護士費用を認めた。

若干のコメント

投機取引に関する消費者保護,適合性が問題となった裁判例ですが,本件におけるY1のように,いわゆる情報商材を販売する者の責任と,その誘導された取引先Y2の責任が興味深かったため,取り上げました。


なお,アフィリエイトに関して言えば,消費者庁平成24年5月に「「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」の一部改定について」を公表し,アフィリエイトプログラムに関する景表法の問題点に言及しています(http://www.caa.go.jp/representation/pdf/120509premiums_1.pdf の9頁)。