IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

著作権を有しない者からのライセンス 東京地判平25.9.24(平23ワ34126号)

旧ソフトの一部を複製して開発されたソフトの権利を譲り受けたライセンサが,旧ソフトの著作権は第三者に譲渡され,利用許諾を得ることはできないとして債務不履行責任が認められた事例。

事案の概要

多少入り組んでいるため,簡略化する(図も参照)。

XとYとの間で,平成21年10月1日にパートナー契約が締結されたが,その内容は,YからXに対して本件ソフトを提供し,Xがこれを使用,再販,複製するというものであった。XはYに対し,本件パートナー契約に基づいて約200万円が支払われた。


本件ソフトの原型となる旧ソフトは,もともとZ(ただし代表者はYの配偶者であるなど,密接関係を有する。)が開発しており,旧ソフトの著作権はすでにNに譲渡されていた。


そこで,Xは,本件ソフトには著作権上の瑕疵があるとして,支払済みの金額約200万円を損害賠償として請求した。

ここで取り上げる争点

(1)本件ソフトは旧ソフトを複製または翻案したものか
(2)XまたはY以外の者が本件ソフトの著作権を有するか

裁判所の判断

争点(1)について


まず,本件ソフトの一部分については,Zが,旧ソフトに依拠し,これと一部が同一の本件ソフトを創作したものであるとして,本件ソフトの一部は,旧ソフトを複製したものであることを認定した。


その余の部分については,次のように述べて,否定している。

Xは,本件ミドルソフトについては,これと先行ミドルソフトに同一の関数が多数使われている上,Windows2000,WindowsXP及びWindows2003は,WindowsNTの後継で,これと基本設計を同じくして互換性を有するし,当時の先行ミドルソフトはWindows2000やWindowsXP,Windows2003にも対応するものであったから,先行ミドルソフトの表現上の本質的な特徴を維持している(略)と主張する。しかしながら,本件ミドルソフトについてみると,弁論の全趣旨によれば,上記関数は,プログラム「ソフトウェア部品」に対応したインターフェースであることが認められるから,それ自体には著作権法による保護が及ばないし(同法10条3項2号),その記述が思想又は感情を創作的に表現したものであることを認めるに足りる証拠はない。また,Windows2000,WindowsXP及びWindows2003がWindowsNTと基本設計を同じくして互換性を有することを認めるに足りる証拠はなく,仮に基本設計を同じくして互換性を有するものであるとしても,証拠(略)によれば,本件ミドルソフトは,先行ミドルソフトにマルチシステム機能や新法等に対応した機能が追加され,ソースコードの記述が随所にわたって変更されたことが認められるから,この事実に照らすと,本件ミドルソフトにおけるソースコードの記述が先行ミドルソフトにおけるソースコードの記述と同一であるとか,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持していると認めることはできない。


争点(2)について


Yは,旧ソフトについては,Zがソースコードを開示していたことなどを理由に,著作権を放棄していた,と主張していたが,Zが旧ソフトに担保権を設定して億単位の貸付けを受けていたことなどから,放棄の事実は認められないとした。


その結果,Yは,Nから旧ソフトについての利用許諾を受けられる見込みはないとして,給付の追完可能性はなく,Yの債務不履行があったとして,請求どおり約200万円の損害賠償を認めた。

若干のコメント

ソフトウェアの権利を譲渡した後に,そのソフトウェアに一部改良を加えたものについて譲り受けてライセンスしたという,一部他人物ライセンスの事案です。


判決文の引用箇所は,複製・翻案が認められなかった部分に関するものであり,一部については複製行為が認定されているので,結論には影響しなかったものの,外形的な特徴や,設計が共通しているといった事実だけでは利用(複製・翻案)が認められないということを示した一例ということで取り上げました。