追加作業は会社ではなく個人へ委託されたものであるとの被告の反論を排斥して追加発注を認定し、報酬額を他の発注の人月単価をベースに算定した事例。
事案の概要
Yは、Xに対し、平成15年4月ころから特許情報管理システムの設計開発を依頼した。最初の工程として、要件分析(要件定義)について請負契約を締結し、Xは要件定義書を作成してYに引き渡し、請負代金として合計で262万5000円が支払われた。
続いて、平成15年12月ころ、XY間で内部設計についての契約(第1請負契約)が締結され、平成16年1月ころに仕様変更を目的とする契約(第2請負契約)が締結された。
Yは、Xに対し、前記要件定義代金とは別に、合計で720万円を支払い、第1請負契約代金に充当された。第1請負契約及び第2請負契約の代金・内容は、いずれも争いがある。
XはYに対し、第1請負契約の代金は1050万円であるとして、残額の330万円の支払と、第2請負契約の代金283万5000円の支払い(合計約610万円)を求めたのに対し、Yは、請負契約の内容や代金額を争うほか、債務不履行による解除によって既払金720万円の返還請求権で相殺すると主張した。
ここで取り上げる争点
- 第2請負契約の内容と請負代金
第1請負契約の代金や仕事の完成も争われたが、裁判所は、Xの主張する額で認定して完成を認めた。この点については省略する。
Xは、第2請負契約にはパテントニュース配信対応作業(PN作業)と、旧システムバグ対応作業が含まれ、その作業に3人月を要したから、代金は283万5000円(1人月あたり94万5000円)であると主張したのに対し、Yは、PN作業はC個人に依頼したのであって、Xには依頼しておらず、バグ対応は無償で行われたものだと主張していた。
裁判所の判断
裁判所はXの請求をいずれも認めた。C個人に依頼したものであるというYの主張に対しては、
Yは,PN対応作業は,C個人に対する依頼であった旨主張し,Dはそれに沿う供述をするが,同作業にはX従業員Eも関与して行われたことが認められ(略),また,同作業のほか,第2請負契約の各作業が第1請負契約の作業開始後,追加割込作業として加わったため,第1請負契約の作業が遅れ,詳細設計書の完成も当初予定時期から遅れたことは前記認定のとおりであり,(略),当時Cは原告技術担当取締役であったことなどの事実に照らすと,前記Dの供述は措信できず,他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。
として退けた。
また、金額を283万5000円(1人月あたり94万5000円(税込))とする客観的証拠はなかったが、
- 別の作業についても、1人月90万円として2人月分相当の189万円*1を支払ったことがあること
- 第2請負契約の額も同程度の人月単価になることはYにおいて推測できること
- Xにおいてこの作業を協力会社に人月あたり70-80万円で再委託していたこと
から、第2請負契約についても、3人月・283万円5000円とするのが相当であるとされた(Xの請求はすべて認容された)。
若干のコメント
仕様追加に伴う追加発注の成否、範囲や金額についての争いは多く発生しますが、元の契約の形式や規模、追加発注のルールの有無や、元の契約対象との差異などによって結論が異なるため、「こういう場合には追加請求が認められる」という定式化が難しいところです。本件を含む裁判例を分析すると、元の契約における業務の内容と報酬額の決定の経緯を考慮して、そこに含まれない業務があった場合に、当初の報酬額の決定方法(多くは開発規模と工数による算定)に基づいて算定されることが多いです*2。
本件では、明確な基本契約書などの契約書類が取り交わされた形跡はなく、仕様変更や契約条件の変更についての規定も存在しなかったものと思われます。しかし、いったん決められたスコープでの作業を実施中に、追加の作業が依頼されたことは争いがなく、それによって元の作業に割込みが生じたことから、「第2請負契約」が成立したことが認められました。そのうえで、別の作業が人月あたり90万円で取引されていたことから、Xの主張する3人月をもとに270万円(税込283万5000円)が認定されました。
仕様追加に伴う追加契約の範囲や、その報酬額の算定の参考となる一事例だといえるでしょう。