IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

注文者による完成前の解除と民641条による損害賠償 東京地判平21.9.29(平21ワ13号)

ホームページ構築作業中に注文者から解除されたとして損害賠償を求めた事案。

事案の概要

平成20年3月ころ,ホームページの構築等を行うXは,労働者派遣事業を営むYから求職者向けウェブサイトの構築を約220万円で請け負った。5月には,トップページのデザインを提案するなど,作業が進められた。しかし,そのデザインについて折り合いが合わなくなり,平成20年6月になって,Yが要望をくみ取ってもらえないとして契約を解除したことから,Xは,Yに対し,約70万円の損害賠償を求めた。

ここで取り上げる争点

(1)民法641条に基づく解除の成否

(注文者による契約の解除)
第六百四十一条  請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる。


(2)損害の額

裁判所の判断

Yは,Xの制作能力を問題にした解除であると主張したが,裁判所は,

[1]Yは,Xの提案になかなか返答せず,回答を督促されても抽象的な要望を繰り返すにとどまっていたにもかかわらず,その後,Yの業務には力仕事が多く含まれる旨のそれまでとは異なる説明をしてトップページデザインの修正を求めるに至ったものであり,
[2]これに対し,Xは,Yの要望に応えるため,自らが作成したサイト例を提示し,当初の提案とは別に4種類ものデザインを作成したほか,Yから受領したクリップアートに基づいて修正を行い,さらにYから提示された写真を使用して2種類もの再修正案を作成するなど,Yの意向に沿う形で誠実にこれに対応してきたが,
[3]Yは,Xから催促を受けるまで再修正案に対して何ら応答することのないまま,突如,本件請負契約の解消を申し入れるに至ったというのであるから,
本件サイトの制作に手間取った要因は,専らYの説明不足や連絡不足にあったというべきであり,他に,Xの債務不履行をうかがわせるような事情は見当たらない。

として,Yによる合意解約ないしは債務不履行解除の主張を退け,Yによる解除の意思表示は民641条による解除であるとした。


損害の額は,作業に従事した時間,担当従業員の時給から約16万円,営業活動に従事した時間,従業員の時給,経費から約10万円,逸失利益(受注金額×10%相当の営業利益率)として約23万円などの合計約52万円を損害として認定した。

若干のコメント

規模は小さいですが,民法641条に基づく解除と損害が認定された事例はあまり多くありません。そういう意味で紹介しています。


トップページのデザインが合わない,気に入らない,ということで何度かやり取りした上で,注文者が解除してしまった,というケースはそれほど珍しくないように思います。そういう場合に,それまで要した人員の人件費相当額に,その案件で想定される利益分が賠償額として認められたということになります。


民法641条が使われるのは,システムが完成する前に,ユーザが見切りをつけて債務不履行解除したものの,ベンダには債務不履行が認められず,ユーザから履行相当分について賠償を求めるというパターンです。本件もその一例といえるでしょう。