IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

ホームページ記載内容の証拠提出 知財高判平22.6.29(平22行ケ10081)

ホームページの情報の証拠の信用性に関して言及された裁判例。当該部分に限定して紹介する。

事案の概要

YがXの商標768139号(本件商標)について商標登録取消審判(不使用。商標50条1項)を請求し,取消審決が出された(取消2008-301078)。Xは当該審決に対し,審決取消請求訴訟を提起した。


Xは,本件商標を使用しなかったことについて正当な理由がある(商標50条2項但書)と主張していた*1。正当な理由の一つとして,Yが「本件商標はYが所有している」などの虚偽事実をYのホームページに掲載し,Xの営業活動妨害行為をしていたというものがある。

ここで取り上げる争点

Yによる営業妨害行為の証拠として提出されたYのホームページをプリントアウトした書証の信用性


※その他の取消事由,争点については割愛する。

裁判所の判断

Xが提出した上記証拠(甲第47号証―Yのホームページ)について,次のように述べた。

「file://C:\DOCUMẼ1\AE9E3̃1.KAR\LOCALS̃1\Temp\4LVDJ3A8.htm」(甲47左下欄)の記載からすると,それがインターネットのURLであると認めることはできず,むしろ前半部の「file://C:\DOCUMẼ」の記載からすれば,特定のコンピュータに記録されたホームページのデータであるものと推認される。この点について,原告は,当時の代理人弁護士がホームページを瑕疵なくプリントアウトするため,自己のパソコンのプリント・スクリーンに一度取り込んでから印刷したものであると主張する。しかし,原告の上記主張は採用の限りでない。すなわち,インターネットのホームページを裁判の証拠として提出する場合には,欄外のURLがそのホームページの特定事項として重要な記載であることは訴訟実務関係者にとって常識的な事項であるから,原告の前記主張は,不自然であり,たやすく採用することができない。

その結果,Yによる営業妨害行為は認定されず,取消事由はいずれも理由がなしとされ,棄却された。

若干のコメント

ウェブサイトの内容を印刷して証拠として提出するケースは少なくないです。書籍などの公刊物と違って,その内容が変遷しやすいことから,適切に保全して提出する必要があります。そもそも,ウェブサイトの内容を証拠として提出する場合には,情報を出力した紙を原本として提出するという新書証説が有力のようですが(このあたりは記憶頼りなので,自信がなく),「誰が」「いつ」「どのウェブサイトを」「どうやって」出力したのかは明らかにしておかねばならず,訴訟の途中で信用できない,とされても,その後,同一のものが入手できなくなります。


とはいえ,少なくとも裁判所においては,

インターネットのホームページを裁判の証拠として提出する場合には,欄外のURLがそのホームページの特定事項として重要な記載であることは訴訟実務関係者にとって常識的な事項である

とされているので,通常の場合には変な小細工をせず,デフォルトの機能で印刷するのがよいでしょう。

*1:商標50条2項では,不使用取消審判請求があった場合において,3年以内に当該商標の使用を被請求人が証明しないと取消になるとしつつ,但書で,使用していないことに正当な理由がある場合は「この限りではない」として,取消をまぬかれることとしている。この正当な理由は,「生産準備中に天災地変等によって工場等が損害した場合」など,極めて限定される。